偶然に見つかってしまった胆石,突然の腹痛で見つかった胆石。いったいどうすればいいの?とお悩みの方へ。
- 胆石治療の考え方
胆石とは胆嚢内にコレステロールやビリルビンを成分とする石ができた状態です。この結石によっておなかが痛んだり肝機能障害を引き起こしたりすると、いよいよ治療を勧めることになります。その場合結石の数や大きさ、結石成分,そして患者さんの年齢や全身状態を考慮して治療法を選択します。それではもしも無症状であったらどうしましょう。最近では健康診断やほかの病気でお医者さんにかかったときに偶然に発見される事も多く、“静かな石、silent stone”と言ってそのまま経過を見ている方もいるのですが、このような無症状の患者さんであっても治療を行うことがあります。たとえば海外に長く出かけるビジネスマンが出張中に発作が出るのを嫌って予防的に手術を希望されたり、国際線パイロットが手術を受けるというようなケースです。中には今後の人生に負の財産(胆石発作出現の恐怖など)を持って生きることを嫌い腹腔鏡手術をしてくれという方もいます。つまり胆石の治療は患者さんの生活環境や人生観によっても適応が変わるものなのです。
- 治療法の選択
治療にはどのような方法があるのでしょうか。今現在一般的に行われている方法を表1にまとめておきました。さてこの中からどれを選択するか。患者さんのお気持ちとしてはなるべく痛くない方法、コストのかからない方法、時間のかからない方法などいろいろ希望があると思います。しかし症状がある場合には結石を確実に取り除ける方法を選択することが重要です。特に1990年代から日本でも行われるようになってきた腹腔鏡下胆嚢摘出術は開腹手術の多くのデメリットを解消した方法として既に一般的であり、多くの病院で採用されている方法です。表②は開腹手術と腹腔鏡下胆嚢摘出術との簡単な比較です。以前に腹部手術を受けていたり,胆嚢の炎症が強くて剥離が難しい患者さんには開腹手術が適していますが,そうでなければ腹腔鏡手術がもっとも確実で比較的体に優しい方法といえるでしょう。
- 腹腔鏡下胆嚢摘出術の安全性について
さて昨今医療過誤の報道が毎日のようにマスコミをにぎわし、最近も腹腔鏡手術による死亡例が話題になりました。このような現状から腹腔鏡手術の安全性について疑問を感じている方も多いと思います。ここで私が心配するのは未熟な医師が起こした事件によって腹腔鏡手術に対する誤解が生じ、そのために本来やるべき手術を受けなかった患者さんが胆石発作や胆嚢炎に苦しむことです。100%安全という手術はありませんが、熟練した外科医が充分に注意しながら治療を行っている病院では、腹腔鏡手術が特別危険であるという事はありません。私が昨年7月当院に赴任してから現在までの10ヶ月間に15例の腹腔鏡下胆嚢摘出術を行いましたが、創の感染などの軽微な合併症以外に重篤なものはまったくありません。手術時間や麻酔時間も開腹手術に比較してほとんど同等か場合によっては短いこともあります。やはり現時点では手術の必要な胆石症に対する治療の第1選択と考えられます。
以上胆石についての考え方や治療方法について簡単にご説明してきましたが,良性疾患である胆石の治療で命に関わるような危険な目に遭ったり後遺症に悩むことほど不本意なことはありません。もしあなたが胆石について悩んだときにはインターネットや健康本の一般知識のみで判断せず、消化器外科医に一度ご相談することをお勧めします。
今後は病院ごとの腹腔鏡手術件数や合併症発生率が積極的に開示され、担当外科医の治療経験がどの程度であるのか治療前の患者さんに判別できるような医療システムが構築されていくべきだと考えています。しかしそうでない現在はセカンドオピニオン※1などを積極的に活用し、より良い手術を受けていただきたいと思います。※1セカンドオピニオン (第二の意見)
診断や治療法の説明を受けた医師と違う医師に意見を求めること。単に治療法の問題だけではなく欧米では患者さんの権利を守るためにも行われている。