ハートラインNo.13 メタボリックシンドローム

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今回は最近良く耳のするメタボリックシンドロームを取り上げてみました。日本人の死亡原因の第1位が悪性腫瘍(癌など)で全死亡の1/3を占めます。一方動脈硬化をベースにする心疾患と脳血管疾患は合わせると約1/3になり、ほぼ同率です。そしてこの動脈硬化を起こすリスクファクター(危険因子)の集積の新しい名称がメタボリックシンドロームです。何故注目度が高いかと言うと、1つには食生活の欧米化、運動不足、その結果生じる肥満などにより、日本人にも患者数が増加していることが挙げられます。 メタボリックシンドロームのキープレーヤーは内臓脂肪の蓄積です。これは必須項目です。体型的に見ると上半身肥満のりんご型に多くみられ、洋梨型の下半身肥満には皮下脂肪が多いようです。CTスキャンで内臓脂肪面積が測定され、当院でも取り入れています。内臓脂肪面積やウエスト周囲径は臍高レベルの測定です。男性ホルモン(テストステロン)は脂肪を内臓に運んで蓄える性質があるため、男性は内臓脂肪型肥満になりやすい傾向にあります。一方、女性ホルモンはお尻や太もも、下腹部に皮下脂肪を蓄積させ、内臓脂肪を分解する働きがあります。しかし、閉経すると女性ホルモンの分泌が低下してしまうため、エストロゲン欠乏によるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の増加、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下が起こってきます。 ところで最近の研究により脂肪細胞(この場合は白色脂肪細胞のこと)はエネルギー貯蔵の役割だけでなくアディポサイカインと呼ばれている生理活性物質を分泌していることが分かりました。このアディポサイカインには、インスリンの感受性を高めたり、血管壁を動脈硬化から守ったりする等の良い働きをするアディポサイカインと血圧を上げるアンギオテンシノーゲン、血栓を作りやすくするPAI-1、インスリンの感受性を阻害する腫瘍壊死因子(TNF-α)等の悪玉の物質があります。そして肥満により肥大した脂肪組織では、善玉のアディポネクチンが減少し、かわって種々悪玉物質が増加してしまいます。内臓肥満が如何に大変な問題であるかお分かりになったと思います。女性は更年期を迎えたら、内臓脂肪型に成り易くなるので一層の生活習慣の注意が必要です。 次に高血圧についてです。高血圧もまた動脈硬化をおこす重大なファクターです。血圧の分類を図に示してみました。最高血圧140以上、最低血圧90以上を高血圧症としています。メタボリックシンドロームの診断基準は130/85になっています。1つ1つの危険因子の程度は軽くても、幾つも重なると重大な病気を引き起こすというのがメタボリックシンドロームの考えです。危険因子0の人を1とした時、危険因子が3つ以上では心臓病の発症は35.8倍となるから驚きです。原因のはっきりしない高血圧を本態性高血圧と言いますが、主な誘因には遺伝的因子に運動不足、肥満、塩分の摂りすぎ、飲酒、喫煙、強いストレス、寒さなどがあります。 さて次は高脂血症です。LDLコレステロールは単独で動脈硬化を促進することが知られていて、喫煙と並び心筋梗塞発症の横綱級の危険因子です。メタボリックシンドロームでは高中性脂肪(TG)、低HDLコレステロールが取り上げられています。脂肪細胞は分解されると遊離脂肪酸などになって肝臓に運ばれます。過剰な内臓脂肪は大量の遊離脂肪酸を肝臓に運び、中性脂肪を含むVLDLを増やします。一方VLDLを分解するリポ蛋白リパーゼの働きを低下させます。その結果、VLDLの分解で出来るHDLは減少します。こうして高TG、低HDLの状態では超悪玉と言われる小型LDLが現れてきます。この小型LDLは血管壁の中に入り込み、その結果コレステロールが溜まりアテロームと呼ばれる塊を作ります。そして血管の内腔を狭くするのです。このアテロームが何らかの原因で破裂するとそこに血栓が付着して血管を完全に塞ぐことがあります。心臓に起これば心筋梗塞、脳に起これば脳梗塞というわけです。 最後に説明するのは血糖についてです。診断基準では空腹時血糖110以上が上げられます。糖尿病の前状態でも動脈硬化に関わっていると言うことです。過剰な内臓脂肪から大量のグリセロールが肝臓に送られます。それをもとに肝臓で大量の糖が作られますが、先に述べたように内臓脂肪ではアディポネクチンの減少によりインスリン抵抗性を示し、大量の糖が筋肉などに摂りこめられなくなって血糖を上げていきます。 このように内臓肥満は高血圧、高血糖、高脂血症すべてに悪影響を及ぼします。しかし、内臓脂肪は皮下脂肪より合成や分解能が高いようです。ということは私達が悪い生活習慣を改善することにより、早くに効果が現れると言うことです。 是非適切なカロリー摂取のうえに生活に運動を取り入れて自分の健康を自分や家族のため、ひいては社会のために維持していきましょう。 当院がそのお役にたてば幸いです。

内科 齋藤由美子

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