彫刻の詩人 舟越桂

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 ふっと箱根に行こうと思い立った。私のお気に入りの美術館の一つ、箱根彫刻の森美術館が目的だ。 美術館開館55周年記念として開催されている舟越桂展「森の中を行く」が目当てだ。舟越桂は私と同年代の芸術家で、その作品の醸し出す不思議な雰囲気から「彫刻の詩人」と謳われている。

 箱根行きはまた楽しい。早朝に守谷を出発し、北千住で8:33発の箱根湯本行きのロマンスカーに乗車。2時間で終点箱根湯本駅に到着し、向かいのプラットフォームで強羅行きの箱根登山電車に乗り換えた。
乗客のほぼ半数はインバウンドの外国人だった。30分ほど名物のスイッチバックを繰り返しながら彫刻の森美術館に到着。
美術館ではすぐに品薄となってしまう図録をゲットし、それからおもむろに舟越桂の世界に没入だ。彼の仕事場が再現されており、使用したノミ、ノコギリ・・・などの彫刻の道具がそのまま展示されており、舟越の芸術が生み出される現場が目の前に展開されていた。作品の「妻の肖像」は彼にとって特別な作品だ。ベネチアビエンナーレで特賞を取り、世界的な名声を得た頃、米国のギャラリーから是非購入したいと頻回に要望されたが、この彫刻だけは頑として売らなかったようだ。それだけ思い入れの強い作品なのだ。

 舟越桂の木彫はとても首が長く、また大理石の眼が印象的だ。この大理石は彫刻家の父親(舟越保武)が使っていた物を借用したようだ。頭を割って内部を削り、内側から眼をはめ込んだとのこと。興味深いのは両眼が少し外斜視で、観る者の視線と相交わらずどこか遠くを見つめるような視線だ。彼はもっとも遠い存在は自分自身であると言っているが、その発想に基づいているのだろう。
さらに顔や身体はシンメトリカルではなく必ず非対称だ。観る方向で印象が随分と異なるのはとても楽しい経験だ。

 楠で創られた半身像を前にしたとき、爽やかさとゆったりした気だるさが入り混じったような不思議な印象だ。忙しくギラギラとした現代の時間の流れが急に緩やかになったようで、すごく心地良い。

 舟越桂は彫刻家として円熟の域に達している時に、72歳で病で亡くなった。その残念な気持ちを思いやるととてもやるせない。

・・・逃げていった時間が私のそばにフッと立ったように思うことがある・・・舟越桂のエッセーから

船越桂の木彫は、大理石のやや斜視の眼が遠くを観るようで印象的だ
舟越桂の木彫は、大理石のやや斜視の眼が遠くを観るようで印象的だ
箱根彫刻の森美術館 舟越桂展「森へ行く日」
箱根彫刻の森美術館 舟越桂展「森へ行く日」

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