新型コロナウイルスは感染のピークを過ぎて、茨城県を含め多くの県で緊急事態宣言が解除されました。まだまだ油断は許されませんが、厚い雲間に薄日がさしてきたと少しほっとしているのは私だけではないと思います。
最初に用語の整理を。新型コロナウイルスは「SARS-CoV-2」 (重症急性呼吸器症候群(SARS)を引きおこすコロナウイルスCoVの姉妹種2の意味)と呼ばれ、このウイルスによる感染症を「COVID-19」(COrona VIrus Disease 2019, 2019年に発生したコロナウイルスによる疾患の意味)と呼んでいます。
今日はワクチンの開発状況について最新の情報をお知らせします。
東京オリンピック・パラリンピックは2021年7月に延期されましたが、その実現性に不安ももたれています。それは日本だけCOVID-19が終息しても海外でまだ感染が進行している場合には、開催は極めて難しいためです。
その鍵を握るのはワクチンの開発です。有効なワクチンが2020年内に開発され、年末から2021年当初までに全世界に配布されることが必須となります。
新しい病原体に対する安全で効果的なワクチンを開発するためには、一般的に数年〜数十年かかります。ワクチンの臨床試験(治験)は3段階に分けられます。
第I相(フェーズ1):数十人の健康なボランティアに対する治験、第II相(フェーズ2):感染症が発生している地域で数百人に対して行う治験、第III相(フェーズ3):数千人の参加者に対する治験です。第III相で集計されたデータを米国では米食品医薬品局(FDA),日本では厚労省が検証・審査して認可し、一般に使用できるようになります。
私は以前に蛋白結合型肺炎球菌ワクチンの臨床試験に関わっていましたが、その時に比べるとまったく比較にならないほど新型コロナウイルスワクチンの開発が急速に進行しているのは嬉しく心強いと感じています。
現時点(5月17日)で、もっとも先を走っているワクチンは3つあります。
第II相の治験を進めているのは、中国カンシノ・バイオロジクス、英国オックスフォード大学ジェンナー研究所、と最近FDA承認を得た米国モデルナです。
中国と英国のワクチンは新型コロナウイルスに類似した無害ウイルスを創り、病気を発症させずに免疫応答を引き出します。一方モデルナのワクチンは新型コロナウイルスの遺伝情報をもっているメッセンジャーRNA(mRNA)を利用しています。
3社ともに夏〜秋までに第III相を終了し、2021年初頭までに承認と同時に世界的な増産・配布を計画しています。
少し遅れていますが、第I相を実施中のワクチン候補は6種類以上あり、日本のアンジェス、田辺三菱製薬、塩野義製薬も年内に臨床試験を開始予定と表明しています。
新型コロナウイルス感染症の終息には、有効な治療薬と安全で有効なワクチン開発と世界への早急な配布が必須な両輪です。最近の急速な医学の進歩と技術により、このような人類の歴史を変えてしまうような感染症にいち早く対処できることを祈るとともに、物理的なソーシャルディスタンスを広くとっても、心の距離は密接に皆で力を合わせていきたいものです。