匂いは記憶や感情と深く関連している

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新型コロナウイルス感染症の初期症状として、匂いと味の低下が高率に出現することは前回に触れた。
今日は匂いが記憶や感情に深~く関連していることを話そう。

匂いは、その分子が鼻の奥にある篩板(しばん)という薄い骨板のすき間を通り抜け、脳底部にある嗅球(きゅうきゅう)の受容体に結合して匂い信号として処理される。この匂い情報は匂いに関連する神経細胞(およそ700万個あるといわれる)から発信され、意識に関連する視床や感情に関連する辺縁系に伝えられる。したがって、匂いが人間の意識や感情に深く関わっている ことが理解できる。

子どもが母親が妊娠中に摂取した香りと似た香りを好むようだという研究結果がある。ヒトの嗅覚は妊娠3カ月で完成するようだが、生まれたときにはその匂いが良いものか、悪いものかの判断はできない。したがって新生児で腐った野菜の匂いと甘いお菓子の匂いをかがしても、同じ反応を示したという。つまり 人間は経験によって匂いを学習するようだ。

この学習は匂いと人、場所、その時の状況などの 記憶と密接に関連づけ て行われる。似た香水の匂いからその香水を付けていた人を思い出したり、病院の消毒薬の匂いから入院生活を思い出したりした経験をもつ人も多い。私は幼い頃に風邪をひいて頭痛を訴えると、私の母がハッカ液を首筋に付けてくれたため、このハッカの匂いを嗅ぐとよく頭痛が起こる。

嗅覚に異常をもつ人は65歳未満では1~2%程度だが、加齢に伴い急増する。北欧での調査では、20~90歳までの約20%になんらかの匂いの異常があったという。我々が食べ物を味わうときに、塩味、苦み、酸味、甘み、の味覚だけでなく、その香りを一緒に嗅いでいる。これが 風味, flavorである。香りがしないと「風味が落ちる」のである。

このように嗅覚障害は食べる楽しみの消失、記憶の低下、など感情や気分の変動につながり、うつ病に関連するとも言われている。認知症の初期症状として嗅覚障害が出る ことが報告されており、匂い感覚の低下と認知症の進行に悪循環が起こっているようにも思える。

ハノイのリキシャ(ベトナム)
街を歩いていると香辛料の独特の匂いがする。匂いと記憶が連携しており、タイやベトナム料理の香辛料の匂いをかぐと、東南アジアを旅した記憶が蘇る。

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