めまいやふらつきは非常に多い症状で、講演会でも一度でも経験した方に挙手してもらうと8割以上の方の手があがります。このようなめまいやふらつきは年をとるにしたがって多くなりますが、“年をとったらふらつきはしょうがないので我慢するしかない”と考えられている方が少なくありません。しかしその原因を診断して、正しく治療すれば治るめまいが多いのです。
今回はめまい・ふらつきについて解説したいと思います。
1 体のバランスはどのように維持されているのでしょうか
めまいがするときに「ふらふらする」と表現することが多いですが、この「ふらふら」のうち前の「ふら」と後ろの「ふら」は同じなのでしょうか。実は正反対の意味があるのです。前の「ふら」はバランスがくずれたためにおこる「ふらつき」であり、後ろの「ふら」はこのふらつきを補正し倒れそうになる体を戻す「ふら」なのです。したがって前の「ふら」だけでは倒れてしまうわけですね。
体のバランスは巧妙に維持されており簡単には倒れません。バランスを維持する上で重要な部分は、耳の内耳、とくに三半規管と耳石器、および小脳です。内耳からバランスの情報が前庭神経を通って小脳に伝えられ、そこから全身の筋肉にうまく緊張とゆるみの指令をだしてバランスを維持しています。したがって、この経路のどこかに異常が生ずるとバランスが崩れて「めまい・ふらつき」が起こります。内耳の蝸牛(かぎゅう)は聞こえの感覚器で、聞こえの情報が蝸牛神経を通って脳に伝えられます。
2 めまい・ふらつきの原因は何が多いのでしょうか
繰り返すめまいのために病院やクリニックを受診した時に、「メニエール病」と言われたことがありませんか。めまいの病気としてメニエール病はよく知られており、家庭医学書でも治療が難しい慢性のめまいの代表的な病気として紹介されていることも多いようですが、しかし実際にはそんなに多くありません。
めまい患者さんの統計では、内耳が原因と考えられる患者さんが約6割、脳の血液循環不良が原因と考えられる患者さんが約3割と報告されています。耳鼻咽喉科外来では内耳が原因と考えられるめまいの患者さんが多いのですが、メニエール病はこの中でも10人に1人(約10%)くらいしかいません。内耳が原因でめまいをおこす病気の中で、非常に頻度が高いのは「良性発作性頭位めまい症」(略して頭位めまい症)です。耳鼻咽喉科でみるめまい患者さんの約半数はこの頭位めまい症と考えられます。
3 繰り返すめまいの診断は?
多くの場合、めまいの持続時間やめまいにともなう他の症状によっておおよその診断ができます。
- 1分以内におさまる回転性めまいで、難聴や耳鳴りがない
良性発作性頭位めまい症(耳が原因のめまいの約50%) - 1分以上続くめまい(回転性、ふらつき)で、難聴や耳鳴りがなく風邪を引いた後などにおこる
前庭神経炎(バランスを伝える神経の神経炎)(耳が原因のめまいの約15%) - 1分以上続く回転性めまいで、難聴や耳鳴りをともなう
メニエール病(耳が原因のめまいの約10%) - 1分以上続くめまい(ふらつき、目の前が暗くなる、立ちくらみなど)で、手足のしびれ、後頭部痛、ものが二重にみえ、ことば が喋りづらい、などの症状(脳の異常を示す)をともなう
脳の病気にともなうめまい(循環障害、脳卒中、など)
4 もっとも頻度の高い「良性発作性頭位めまい症」とはどんな病気なのでしょうか
朝、起き上がるときに目が回る、寝返りするときに目が回る、振り向いた時に目が回る、などの症状の場合には頭位めまい症の可能性が高くなります。
診断のポイントは次の3つです。
- 起床時の起き上がり、寝返り、ふりむきなどでめまいが誘発される
- ぐるぐる回る回転性めまい
- めまいの持続時間は非常に短く、1~2分以内
頭位めまい症は、内耳にある耳石(じせき)がなんらかの原因で剥がれて三半規管に入り込んでしまい、誤ったバランス情報が伝えられるためにめまいが起こります。耳石が剥がれる原因としては、交通事故などのよる頭部外傷、むち打ち症、慢性中耳炎による内耳炎症、などがあります。さらに女性は閉経後カルシウムが不足するため耳石がもろくなり、剥がれやすくなるため男性よりも3倍起こりやすいと言われています。
5 つくば難聴めまいセンターではどのようなめまい検査をするのでしょうか
- めまいの症状の問診
受診までの時間に問診表に記載していただきます。
めまいの病気の症状は特徴的なものが多いので、めまいの症状を良く聞くことによってほぼ70-80%診断できると思っています。 - 聴力検査
めまいと一緒に難聴や耳鳴りが起こる場合には、内耳障害によるめまいの可能性が高くなります - 重心動揺検査
ふらつきの程度を調べる
体のふらつきを正確に調べるために、体の重心の微細なゆれを重心動揺計(グラビコーダ)でとらえ、コンピューター処理します。 - ビデオ眼振検査機器による平衡機能検査
眼球の動き からめまい診断
めまいを起こしている患者さんの眼球をみると、眼球 が左右に回転しながら動いています。これは「眼球振盪 (がんきゅうしんとう)」、略して「眼振(がんしん)」と呼ばれます。この眼振の特徴を調べることにより、内耳の三半規管や脳のバランス中枢の障害の程度を知ることができ、めまいの正確な診断が可能となります。
・・・正に、 “目は口ほどにものを言う”ですね。
6 めまいの治療—めまいは治るのですか
正しく診断されれば、適切な治療法により多くのめまいは治ります!
良性発作性頭位めまい症の治療—薬も手術もいりません!
頭位めまい症は耳石が剥がれて、三半規管内に入り込み浮遊するために起こります。したがってこの浮遊して いる耳石を取り除いてやれば症状は治まるわけですが、 手術で取り除くのは大変難しいのです。そこで米国の ジョン・エプリーさんが画期的な治療法を考案しました。 この治療法は薬も手術もいりません。うまく頭位を変換 させて浮遊している耳石をもとの耳石器にもどしてあげれば良いという理論です。これがエプリー法(エプレイ法)で、実に頭位めまい症の約80%が数分でおわるエプリー法で治ってしまうのです。
患者さんはめまいが出現したときはぐるぐる回るのでびっくりし、近くのクリニックで点滴治療や色々な薬を処方されて治療を受けていた方も少なくありません。そのためエプリー法の頭位変換治療で治ってしまうとまたびっくりです。
“魔法だ!”だと言って驚く患者さんもいます。
メニエール病の治療—利尿剤と中耳加圧治療が良く効きます。
私の治療
ステロイド中耳内注入、薬物治療(イソバイドシロップ 、漢方薬)、中耳加圧療法(メニエット、スウェーデンで開発された携帯型小型治療器です。鼓膜に小さな穴を開けて、内耳に圧力をかけてメニエール病を治療します。めまい発作をおさえ、耳鳴りを軽減する効果が期待できます)、難治性の場合には、手術(内リンパ嚢開放術)を行っており、良好な成績を得ています。
7 めまいの運動療法・リハビリテーションが効果的です
良性発作性頭位めまい症やメニエール病でめまい発作が起きて、病院やクリニックで治療を受けた後でも、
- まだふらつきがあり不安だ。あまり食欲もない
- 急に立ち上がったり、振り向いたりするとふらつきがあり、とても不安だ。動くと多少ふらつくので安静にしていた方が良いかな。
- 人混みの中を歩いたら、まためまいと吐き気が出てきてすぐに帰宅した。
などの症状で悩んでいる患者さんが少なくありません。
これらの症状は回転性めまい発作が治っていく過程でみられる典型的な症状です。体のバランスが一度崩れたあとは、痛みが鎮痛薬でスーと消えていくようにはバランスは戻りません。このような場合の治療として、運動療法が非常に効果的です。
つくば難聴めまいセンターにおける入院めまいリハビリ療法(1週間)
私が作成した運動療法処方に基づいて当院リハビリテーション技師が運動療法を指導します。運動療法はめまい・ふらつきの強さや年齢に併せて組合せや回数を調整します。6月から開始していますが、大変効果的で多くのめまい・ふらつき患者さんが退院後は改善して活動範囲が広がったと報告しています。自宅でもプログラムに添って訓練を続けます。