下肢静脈瘤とは
動脈瘤という病気もあり、静脈瘤という病気もあります。全然違う病気ですが、しばしば混同されてしまいます。
まず、動脈と静脈の違いとは?
動脈:心臓から体の隅々まで血液(酸素と栄養素を含む)を届ける役割
静脈:体の隅々から心臓へ血液(二酸化炭素と老廃物を含む)を返す役割
もちろん足にも動脈と静脈があります。
足の静脈は大きく分けて2つの系統があります。
表在静脈:筋肉より上(皮下組織内)にある静脈。足首や足の甲では誰でも見えます。
深部静脈:足の深部(筋肉の奥)にある静脈。表面からは全く見えませんが、足の血液の90%は深部静脈で運ばれています。
どちらも、足から心臓までの長い道のりを血液が(立っているときに)登っていくために、重力によって血液が落ちてしまわないための逆流防止弁がついています。
表在静脈と深部静脈は互いに連絡(交通枝)を持ち、どちらかが流れなくなっても、片方が代わりをする仕組みになっています。
ここで本題。下肢静脈瘤とは
「表在静脈の弁が壊れた状態のこと」=「重力に逆らえなくなった血液が落ちて足に溜まること」です。例えて言えばこんな感じ。
足になぜか重りが付いているんです。心臓に戻らないでいる血液が袋を作って足にまとわりついている・・・
表在静脈の主なものは
大伏在静脈:足の付け根から太ももの内側を通る静脈
小伏在静脈:膝の裏からふくらはぎの後ろを通る静脈
の2つがあります。見たことも聞いたこともない?そうです、「伏在」とは隠れている、と言う意味ですから。普通は脂肪に埋まっていて存在感を感じません。ところが、弁が壊れた時、すなわち静脈瘤になった時に急に存在感が増します。
具体的な症状は
「足が重い、だるい」・・・
そりゃ、そうです。血液が心臓に戻らないで、足でグズグズしていますから。
「静脈が目立ってきた、静脈がぼこぼこになった」・・・
帰れない血液は表在静脈の下のほうで溜まっています。
「足がかゆい、皮膚が茶色くなっている」・・・
血液が溜まり過ぎて皮膚を障害しています。
「傷が治らない」・・・
弱くなった皮膚は再生しない・・・
このような場合、どの血管が壊れたかを正しく診断して、治療する必要があります。
静脈瘤の種類
弁が壊れた静脈の種類から大きく4種類にわかれます。
- 伏在静脈瘤
- 分枝静脈瘤
- 網目状静脈瘤
- 蜘蛛の巣状静脈瘤
下肢静脈瘤の治療法
伏在静脈瘤は放っておくと皮膚炎や潰瘍になる可能性が高いので、治療をおすすめします。
圧迫療法:弾性ストッキングを履きます。
下腿(ふくらはぎ)を圧迫することで、血液は落ちてきているけど溜まらない(深部静脈に押し戻す)効果があります。ただし、履いている時のみの効果です。
硬化療法:静脈瘤に硬化剤を注入して硬化させる(固める)治療です。硬化した血管は吸収されて消えていきます。
ストリッピング(抜去切除)手術:伏在静脈を抜き取る手術です。現在は局所麻酔で小さな傷で行うことができます。逆流の原因を切除してしまうので根治的です。
レーザー手術:伏在静脈を取る代わりに焼く治療です。ストリッピングと効果は同じで、傷も痛みもほとんどありません。焼いた血管は吸収されて消えて行きます。
現在当院では下肢静脈瘤の90%の患者さんをレーザーで治療しています。
取り組み
レーザーで焼く血管は大腿(太もも)が主で、下腿(ふくらはぎ)のぼこぼこした瘤は焼くことができません。そこで、多くの施設では、ふくらはぎの瘤は抜去切除されていますが、当院では切開することなく、自然にきれいに治るように導く治療をしています。
ふくらはぎの瘤は上から血液が落ちてきた結果、膨らんでしなっただけで、余計な血液が溜まらなければ、元に戻ることが期待できます。レーザーだけで治る人が半数以上、硬化療法を追加して治る人が3割くらいです。