深部静脈の働き
静脈:体の隅々から心臓へ血液(二酸化炭素と老廃物を含む)を返す役割
深部静脈は表在静脈(下肢静脈瘤の項参照)と違って、深部、すなわち筋肉の奥、見た目にはわからないところにあります。見えないけれど、足の血液の9割はこの深部静脈が運んでいます。たくさんの血液を輸送するために、足の筋肉の収縮力で押し上げ、呼吸の動きで引き上げるようにして、足から心臓へ静脈血が帰ります。さらに深部静脈にも逆流防止弁があります。
深部静脈血栓症
深部静脈の病気で最も多いのが深部静脈血栓症です。
深部静脈に血栓がある=深部静脈(幹線道路)が途中で通行止め
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渋滞(血液の欝滞)
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足へ逆流
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足のむくみ、痛み、静脈の拡張(静脈瘤)
しかし深部静脈血栓症のもっと困ることは、この症状ではありません。
足にできた血栓はじっとしているとは限りません。どこに行くのでしょう?
静脈の流れは足から心臓(下から上)ですから、血栓もその流れに乗って、心臓のほうに流れていくことがあります。心臓に飛んだら心筋梗塞になる!・・・なんてことはありません。心臓は大きな袋なので、血栓はあっさりスルーしてしまいます。脳梗塞になって大変だ!・・・なんてこともありません。
静脈の血液は心臓を出たら、肺に向かうのです。深部静脈血栓症で一番怖いのは肺塞栓症です。(注)
肺で浄化(酸素化)される血液の通り道がふさがって、肺が仕事できなくなる状態です。
注)肺梗塞とはちょっと違います。梗塞とは組織(臓器)が壊死してしまうことで、心臓や肺のように血液を相手に仕事をする臓器には、自分が生存するため別の血液取り込み口(冠動脈など)があります。だから肺そのものは壊死しません。
エコノミークラス症候群
肺塞栓症の俗名はエコノミークラス症候群です。
飛行機のなかでずっと座ったままでいる=足の筋肉が動かない
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深部静脈の血流が悪くなる
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静脈血が固まる。=静脈血栓症
足を動かさなければ血栓も動きませんが、立ち上がった時に足の筋肉の収縮とともに大量の血液が足から心臓に戻り、この時血栓が一緒に流れていくのです。血栓は肺動脈に詰まって息が苦しくなる。咳が出たり、胸が痛くなることもあります。ひどい場合には突然死もあり得ます。飛行機を降りた瞬間、突然死。これがエコノミークラス症候群です。
この理屈がわかれば、エコノミークラス以外でも血栓ができることがわかりますね。ファーストクラスでもじっとしていれば同じこと。電車でも車でも。また、手術を受けた時、病気で寝込んだ時も、じっとしているので血栓ができやすいのです。災害時の車中泊でもたくさん発症しました。意外と盲点なのが、草むしりや畑仕事。働いているのですが、ずっとしゃがんだ姿勢でいることは血栓のリスクです。しかも屋外に長時間いれば脱水にもなり、血栓を誘発します。
治療
圧迫:予防でもあります。足の静脈を引き締めて血液が溜まらないようにすること。
新しくできた血栓ほど、飛びやすく肺塞栓の元になります。
抗凝固療法:血液が固まるのをブロックする。注射薬と内服薬があります。
線溶療法(血栓溶解療法):できた血栓を積極的に溶かす治療です。重症例にのみ使います。脳出血などのリスクがあります。
下大静脈フィルター:足にできた血栓が肺に行く前にせき止めようと、通り道の下大静脈にフィルターを入れます。深部静脈血栓症も肺塞栓症もこれで良くなることはありませんが、肺塞栓症による突然死は予防できるといわれています。フィルターには一時留置型と永久留置型があります。