バージャー病は、50歳以下の喫煙者におこる四肢の末梢動脈の閉塞です。突然発症して強い痛みを生じ、ついに切断に至ることが多いことから特発性脱疽として恐れられてきました。若者に多いことと、糖尿病や脂質異常症(高脂血症)、また高血圧がないのが診断の決め手です。
20世紀初頭から病因としていろいろな説が出ましたが、ほとんどが否定されました。
そんな中2005年私たちが歯学部歯周病学科の先生方と共同研究して発見した歯周病菌病因説が大きく報道されました。
バージャー病患者は歯が極めて悪いこと、歯のない人も多く、歯周病に中等から高度におかされていることがわかり、歯周病菌は、口のなかのリンパ管を通じて血中にはいり、体のあちこちで発見されていることもわかりました。
決定的に病因説を裏付けたのは、歯周病菌が血小板の中に入り込んで、または囲まれて血中に生きていることを電子顕微鏡を使って証明したことです。取り込まれるだけでなく大きな血小板凝集塊を作ります。
それが塞栓子として働けばバージャー病のいろいろな所見、症状、禁煙でやむ病勢などが説明でき、静脈に、高頻度に炎症や血栓、弁不全を起こすことも毛細管をくぐり抜けた菌のなせる技とすれば、理解できます。
ある微生物が特定の病気の原因であることを証明するためには以下の三つの条件を満たす必要があります。(コッホ・レンヘの三原則)
これまでの研究で1と2はクリアしていました。当研究所では2014年、ラットを使用し原則3の実証に取り組みました。静脈動脈ともに歯周病菌を注射して2週間程でヒトにみられるのと同じ構造の所見が得られ、ついに証明がなされたといえます。
バージャー病は、たばこを吸って歯周病を悪化させた若者が、歯周病菌を含む血小板血塊により末梢動脈閉塞を起こすことによるのであると結論づけました。
従って、バージャー病は、たばこをやめて歯周病を治し、運動療法やときに交感神経切除を行えば、スキーもできるほどに回復します。
口臭がつよく、病状が急性に変化しているときは歯周病菌を長期にわたって押さえつける抗生剤(アジスロマイシンなど)が有効であろうと考えています。
そしてバージャー病が、全身の小血管にも病変を起こしていることが次々と証明されています。アジア、アフリカではまだ多くの若者がこの病気により切断の悲劇に泣いています。
禁煙技術の進歩と相まって、21世紀になってやっと方向の見えてきたバージャー病治療になお一層の注目をお願いします。