医療法人 慶友会

新型コロナウイルスの話題 抗体検査は有用か

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6月9日ソフトバンクグループが4万4千人を対象にして、抗体検査を行いその結果を発表しました。それによると全体で抗体陽性は0.43%, 医療従事者5800人では1.79%だったようです。今まで日本でこのような多くの人を対象にした検査がなかったので、大変注目されました。(softbank.jp 新型コロナウイルスの抗体検査速報値や出口戦略「ソフトバンクモデル」等について)
この結果をどのように考えたら良いでしょうか。
新型コロナウイルスのパンデミックがおさまるためには、人口の50~60%の人がウイルスに対する免疫をもつこと、すなわち“集団免疫”が確立することだと言われています。ウイルスに対する抗体は免疫の状態を示しますので、上記の1%前後の抗体陽性率では現時点で集団免疫はとても望めないことがわかりますね。この集団免疫の早期確立をめざして、ウイルス曝露を容認(?)して都市ロックダウンをしなかったスウェーデン方式は最初かなり注目されました。しかし人口あたりのコロナウイルス感染死者が世界でトップクラスとなり、厳格にロックダウンした北欧のデンマークの4倍以上、ノルウェーの実に10倍以上となってしまい、その感染対策は失敗であったと指摘されています。さらに最近のスウェーデンの抗体陽性率の調査では7%前後であったと報告されていますので、集団免疫も確立されていないことがわかりました。

新型コロナウイルスの検査法は、ウイルスの存在の有無を調べるPCR検査およびウイルス特異抗原検査と、血液や体液中にウイルスに反応する抗体の存在を調べる抗体検査があります。現時点で販売されている抗体検査キットは約15程度ありますが、いずれも体外診断薬として厚労省の承認を受けていません。すなわち信頼性が担保されてなく、通常のかぜを引き起こすコロナウイルスに対する抗体も検出してしまう可能性もあるようです。したがって、現在の抗体検査は自由診療となり1万円前後の自己負担をしなければなりません。このように自己負担で検査して“抗体陽性”とでたらどのように考えますか。先のソフトバンクグループの報告では、抗体陽性者でPCR検査陽性は31%だったようです。これは抗体陽性者の3割前後がその時点で新型コロナウイルスに感染していることを示しているのであって、残りの7割は過去に“感染したことがある”(感染既往)、あるいは偽陽性だったことを示しているのです。このような抗体検査の限界を理解すると、出社や通学のための“抗体検査:陰性証明”がまるで意味がないことがわかりますね。これはインフルエンザの陰性証明と同じです。

抗体検査には抗体の存在だけを知る「定性検査」と抗体量を調べる「定量検査」がありますが、現在一般に行われているのは定性検査です。抗体検査は感度が高く、短時間で結果が得られるため、PCR検査、臨床症状などと組み合わせる補助診断として有用となる可能性が高いのですが、最近の検討では定性検査で陽性だった患者のたった10%が定量検査(抗体価が高い)で陽性となったと報告されています。したがって今後抗体検査が有用となるためには、信頼されるキットが保険適当となり、IgG, IgM抗体価を定量検査できることが必須と思います。

庭に咲いていたシャクヤクと大好きな画家・彫刻家、船越桂の版画(自宅玄関にて)