血管の病気Q&A

患者さん
血管の病気にはどんな種類があるのか教えて下さい。また、起こりやすい年齢・性を教えて下さい。
医師
血管の病気は、大人それも老人におこると思っている人がほとんどでしょう。しかし、原因不明な病気を含めると子供の頃から見られます。川崎病は幼児にみられますし、高安病も中学生ぐらいから遭遇します。女子に多いのが特徴です。10代の終わり頃からは、バージャー病という若者特有の血管疾患が増えてきます。男性に多く、切断という悲惨な結末が待っています。血管型ベーチェット病もこのころです。瘤をつくったり、動脈を閉塞させたりします。中年女性では血管がやられる膠原病や下肢静脈瘤が目立ちます。そして50才を過ぎると動脈硬化、粥状硬化に関係した全身の血管疾患が登場してきます。また、変性による動脈の拡張が生じ動脈瘤ができ、その部に粥状硬化が起こります。こう見ると若い頃から血管は、病気になるかも知れない運命にあると言えます。

 

患者さん
血管に起こる病気に、なぜ歯周病のような口腔内の菌が見つかるようになったのですか?
医師
すでに19世紀から、血管に菌がつくと血管壁は破壊されることはわかっていました。血管の破壊というとわかりにくいかもしれません。簡単に言うと血管特に動脈の壁が破れて、出血したり、破裂しやすい動脈瘤を作るのです。こんな風なことを起こす菌は、普段は体の中にいないような強い菌です。ところが普段から体の中にいるような弱い菌は、ひよわであり、すぐに死んでしまいます。しかし普段から体の中にいる分だけうまく身を守る術を知っているような強さがあります。弱い菌はすぐ死んでもDNAは残ります。 最近わかったのですが、それがからだのなかで悪さをすることが少なくありません。そうなると培養という難しい手段よりは、DNAを検出する方法をつかわなければなりません。そんな方法(PCR法など)が1990年後半ころから使われるようになって歯周病菌も見つかるようになったのです。

 

患者さん
歯周病菌というのはどんな菌ですか?
医師
歯の周りや虫歯のなかには、いろいろな菌が見つかっています。そのなかでも歯の周りの歯肉との境目は、菌の感染によってポケットができて菌が住み着きます。そこに歯周病菌がいるわけです。ネバネバしており何百種類もの菌が住んでいます。その数は、歯周病になると何億もの菌がいることがわかっています。 代表的な菌は6~7種類ですが鞭毛を持って動く菌や毒性の強い菌もいます。最終的には歯周病に冒された歯は、歯肉との部位がやせ細って抜けてしまいます。

 

患者さん
歯周病菌はどのようにして血液や血管の中に入るのですか?
医師
歯周病菌が、体のいろんな部位それも血管(動脈、静脈、血栓)から見つかっています。 血管までどうやって到達するのか、血管からどうやって血液の中を運ばれるのかは大きな疑問かもしれません。しかし医学の常識からするとリンパ管を通して菌はまず運ばれ、静脈とのつながり部位から血中に入ると考えるのが一般的でしょう。歯肉や歯から直接静脈や動脈に入ることはできません。たとえば足の傷から入った菌が下腿、大腿といった部位の皮下リンパ管を真っ赤にさせながら登っていく光景をよく見ます。リンパ管撮影をするとそのリンパ管は、はるか首にあるリンパ管と静脈のつながるところ(静脈角と呼びます)までのびて血中に消えていきます。リンパ管を顕微鏡でよく見ると、電気掃除機のように口をあけてごみや菌を吸い取る開口部を持っています。 口の中やのどは、その静脈角に非常に近く、歯を磨いても数分で血中に口腔内の菌が見られることをよく説明できます。

 

患者さん
血液中に入った菌は死なないのですか?
医師
その人の血清中に抗体ができている菌が、血液中にはいれば、すみやかに菌は反応によって死んでしまいます。そうでない場合や弱い菌では、血中の白血球によって食べられてしまいます。 白血球にはいろいろな種類がありますが、それぞれが菌を食べる性質があります。体を守るためです。しかし血中でもどんどん増殖できたり、血液成分のなかに入り込める菌は生きて運ばれます。のどや口のなかにいるクラミジア肺炎菌は単核球という白血球の一種類のなかで運ばれることがわかっています。最近、歯周病菌は血小板の中に入って運ばれるのではないかということが証明されました。 血小板は血栓の素みたなものですから、歯周病菌は血小板に乗って体のどこまでも運ばれ、血栓を作り自分もその中に入り込んでいるということがいえるわけです。しかし、歯周病菌は、空気(酸素)の嫌いな、どちらかといえば栄養も好き嫌いのある菌ですから、そんなに長くは生きることはできないと思います。

 

患者さん
歯周病菌はなぜ全身にばら撒かれないのですか?
医師
もちろん全身にばら撒かれます。血小板のなかに入り込んでいけばどこまでも行きますが、血小板が付着しやすいところ、菌が食べられないところに取り込まれると考えています。多分肝臓とか肺とか、脳とか腎臓とかはそこにいる攻撃細胞によって食べられてしまうでしょう。 老化した内皮細胞、傷のある血管内腔、瘤内などには簡単にくっつくと思われます。また、四肢は骨と筋肉だけで攻撃細胞を持っていないので菌のある血小板の餌食になりやすいといえそうです。

 

患者さん
バージャー病にはどのようにかかわっているのでしょうか?
医師
かつて喜劇王エノケンさんを襲ったバージャー病。足の切断を余儀なくされました。わが国では減少したとはいえ、時に重症例にお目にかかります。(村田英雄さんがよくバージャー病で足を切断したと間違えられますが、かれは糖尿病性の足壊疽です)また、難病指定を受けない人も最近ふえているようで、1万人以上のかたがこのバージャー病という指定難病に不安や苦痛を強いられていると思います。タバコとバージャー病は非常に強い因果関係があります。タバコをやめればまず確実に病気の進行を止めます。タバコがバージャー病の原因ではないかと研究されましたがはっきりしませんでした。さらにバージャー病では足だけでなく手や内臓や心臓の動脈も、手足の静脈にも詰まるなどの変化が起こっていることがわかってきました。細い動脈はかなり詰まってきても、なんの症状も出ないことが少なくありません。 最近心臓の手術で手の尺骨動脈全長をとりますが、指は腐りませんし、動きます。2005年になって私たちは、バージャー病の患者さんの完全に閉塞した動脈のほんの一部を外科的に取り出して、歯周病菌DNAの有無を調べました。その結果なんども繰り返して調べた結果14標本中13に歯周病菌が見つかったのです。20世紀のはじめから感染症であるといわれていたバージャー病ですから、当然かもしれないと思われ全国紙に報道されました。そういう目で患者さんを見直してみたら、皆さんは歯が非常に悪いこともわかりました。歯周病です。タバコの成分でニコチンの代謝産物コチニンが歯周病菌に好かれていることもわかりました。さらに、歯周病菌の血清抗体価も高いこともわかりました。

 

患者さん
動脈硬化とはどう関わっているのですか?
医師
動脈硬化のなかでも動脈内部がどろどろになる粥状硬化の部位からも歯周病菌はみつかっています。チーズのようで硬くなったアテロームと呼ばれる部分からも菌は見つかっています。 菌は血小板に乗って運ばれることからどんな血管・動脈でもくっつきやすくなれば菌が入り込むわけです。それが動脈硬化の原因になっているかはわかりませんが、アテロームの不安定化などに関係している可能性があります。

 

患者さん
下肢静脈瘤とはどうですか?
医師
下肢静脈瘤で取り出した静脈からも歯周病菌が見つかりました。50%くらいの頻度でした。バージャー病でみられる静脈炎でも菌が見つかっていますから、別に不思議ではありません。 動脈から毛細血管をすり抜けた菌が静脈の弁に感染して静脈炎や弁の破壊を起こすのかもしれません。妊娠期歯肉炎により菌がばらまかれて出産後静脈瘤を作るのでしょうか。 出産後に多い下肢の静脈瘤は、とくに中世からすでに有名でひろく言われています。 羊水や胎児からも歯周病菌が見つかっていますから、低体重児や流産に絡んでいると言われています。

 

患者さん
静脈瘤は取っても大丈夫なの?
医師
伏在静脈(表在静脈)は通常、下肢の血液の1割くらいしか運んでいません。だからもともとなくても大丈夫。心臓などのバイパスの材料をして使われることもあります。静脈瘤になると、弁が壊れて逆流するので、本来の仕事(静脈血を心臓に返す)をしていません。だから静脈瘤になってしまった静脈瘤は取ったり焼いたりできるのです。
しかし、伏在静脈を取ってはいけない場合もあります。それが深部静脈に病気がある時です。

 

患者さん
深部静脈血栓症と二次性静脈瘤って?
医師
静脈血が帰るところは心臓です。心臓への道を探して静脈血は抜け道を使います。伏在静脈はその時のfirst choice、さらにその枝も駆使して静脈血は心臓に帰ります。こんな時、もし伏在静脈がなくなるともっと浮腫みが悪化するので、伏在静脈をなくしてしまう静脈瘤の手術はできません。しかし、抜け道の伏在静脈も渋滞して、逆流し、静脈瘤になってしまいます。この場合の静脈瘤は二次性静脈瘤と言い、一次性静脈瘤(伏在静脈の弁が自ら壊れた場合)と同じ治療はできません。
深部静脈血栓症および二次性静脈瘤の治療の基本は「圧迫」です。

 

患者さん
からだにどのくらい影響がありますか?熱は?
医師
歯周病があって歯周病菌が体に入っても弱い菌のためか、ほとんど症状は出ません。熱も、寒気もないのが普通です。ただ、糖尿病を悪化させたり、頭痛を引き起こしたり、血圧を上げたり、肩こりなど菌が血液成分とくに血小板と反応するときに発する物質、歯肉付近で反応してでる物質によると思われる症状はあります。

 

患者さん
治療法はないのですか?
医師
歯周病専門医や研究者により、いろいろな治療法が開拓されています。 口の中には歯周病以外の菌がいて悪さをしていると考えられますので、オーラルケアといって口腔内全体のケアが必要です。 一般的には合理的な歯磨きと禁煙など外と内からの最低限の治療が優先します

 

患者さん
わたしはバージャー病といわれました。発症のメカニズムと今後どうしたらいいか教えてください?
医師
バージャー病患者はヨーロッパ、アメリカでは珍しいとされていますが、西アジア、東アジアではまだ多い病気です。喫煙者も多く、オーラルケアもいまいちです。残念ながら血清中の歯周病菌の抗体が上がっても歯周病が治るまでは作用しないようです。 若い人は血管内皮細胞が健康ですから、そう簡単に動脈内皮に歯周病菌や血小板がくっつくとは思えません。ただニコチンなどタバコ成分の関係で、血管が狭くなり(攣縮)、血もどろどろして細い動脈ではちょっとした血小板塊が流れてくれば詰まってしまうと思われます。 歯周病菌は血小板と非常に強く反応して、20ミクロンもの大きさの血小板塊(かたまり)を数分で作ります。これは小動脈を詰めるには十分な大きさなのです。バージャー病は古くから、手や足の先から起こるといわれていました。それも足の親指や小指が急に詰まったかのように発症するのを見てきました。多分かなり小動脈が詰まったあとで、大事な側副路の動脈が突然つまる(塞栓)のでしょう。そのような閉塞が下肢全体、手全体に広がっていき、毛細血管を抜け出た菌が足の静脈の弁に詰まって静脈炎を起こすのではないでしょうか?これはあくまで仮説です。 当然神経にもその栄養血管を冒し、痺れや冷たいなど神経症状を起こすと考えられます。

 

患者さん
動物実験ではなにかわかりましたか?
医師
ラットを使った実験で、歯周病菌を静脈注射で血管内に連続して入れてみました。2~4週間の実験ですが足の細い動脈に血栓症ができていました。さらにその部の歯周病菌DNAは、検体の半分で陽性でした。その他の動物実験を継続中ですがまだ結果が出ていないものもあり、わかり次第報告していきたいとおもいます。これは動物実験ではないですが臍帯静脈細胞を使った実験で放射線で細胞を老化させると歯周病菌がくっつきやすく、培養されやすいという結果も出てきています。 血管それも動脈では加齢による変化が病気、病状の変化に微妙に影を落としていることがわかるとおもいます。

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