鼻や副鼻腔Q&A

鼻や副鼻腔はどのような働きをしているのですか?
Dr.山中
気道の入り口としての役割以外に、冷たく乾いた吸気を加温・加湿する作用や粘液線毛機能やくしゃみ反射などにより気道に入った異物の排泄・除去の働きがあります。さらに局所の粘膜免疫による生体防御、嗅覚、音声の共鳴などの働きがあります。 副鼻腔は嗅覚上皮へ吸気流やバランス保持のための頭部の軽量化、音声共鳴、鼻汁分泌などに関係していると考えられています。
Dr.山中

解説

①加温・加湿作用 鼻腔は吸気の入り口として加温・加湿の役割を担い、下気道のガス交換を合目的に行えるように調節しています。鼻腔の表面積は約160~180cm2とその容積に比べて非常に広くなっています(1)。この広い粘膜の表面を吸気が通過することにより冷たく乾いた埃の多い空気も暖かく湿ってきれいな空気になります。 安静吸気時には23℃、相対湿度45%の外気でも、-10℃、相対湿度50%の大気環境下でも、肺胞のガス交換に必須な37℃かつ比湿100%の状態をつくり出すことができます。しかし口呼吸では、吸気の加温効果は半減するといわれています(2)。鼻粘膜上皮内には杯細胞とよばれる分泌細胞が存在しており、その分布は成人の下鼻甲介で約8,000~11,000/mm2あります(3)。また粘膜下固有層には豊富な鼻腺の分布がみられ、杯細胞や腺細胞からは粘液が絶え間なく産生されます。この粘液は鼻粘膜上皮の表面を覆っており、鼻腔の加湿作用に関与するばかりでなく、粘液線毛機能にも重要な役割を果たしています。なお、副鼻腔粘膜の杯細胞は約5,900~9,700/mm2 、腺の分布は上顎洞粘膜で0.09~0.32/mm2(4)であり、副鼻腔における腺の分布は、鼻腔に比べるとその数は少ないといわれています。

②生体を守るための防御機能 鼻腔は様々な病原微生物やアレルゲンの侵入門戸であり、これらの外来刺激から生体を守るために主に2つの防御機能が備わっています。

a) 物理的排除 鼻腔に侵入した大きな塵埃は鼻毛によりとらえられます。また鼻内への異物の侵入は鼻粘膜の三叉神経の知覚終末を刺激して、くしゃみ、鼻汁、鼻粘膜腫脹、声門閉鎖を引き起こし、下気道への異物の侵入を防ぐ防御反射として働いています。さらに小さい埃は線毛機能により除かれます。吸気に含まれる塵埃は直径が15μm以上であれば鼻腔ですべて除去できますが1μm以下では除去率は5%以内です。鼻粘膜上皮は呼吸上皮で追われ、表面を粘液層が覆っています。粘液層は呼吸上皮の線毛運動によって鼻腔後方へと搬送され粘液層に吸着された塵埃やガスの浄化に役立ちます。鼻咽腔へ落ちた異物は嚥下により消化管に排泄され処理されます。 副鼻腔粘膜にも同様な粘液層があり、その運動は副鼻腔の自然口へと向かいます(5)。

b) 局所免疫 鼻粘膜局所で産生される分泌型IgAを中心とする特異的生体防御機能です。鼻汁中の免疫グロブリンの約60%がIgAであり、中和作用や凝集作用によって細菌などが上皮表面に付着するのを防いでいます。

③嗅覚 鼻の最も重要な役割の1つとして嗅覚があります。嗅覚器は鼻腔の最背側、最上部の嗅裂といわれる小さな領域に局在し(図1)、3種類の細胞、すなわち嗅細胞、支持細胞、基底細胞からなっています。嗅細胞は粘膜表面に向かって1本の樹状突起を伸ばし、粘膜深層へは軸索を伸ばします。樹状突起の先端表面からは数十本の嗅線毛(olfactory cilia)が生え、粘膜表面に漂っています。一方、無髄の軸索は基底膜を貫いた後、集まって約20本の嗅神経となり、篩骨篩板を通って嗅球へと達します。嗅細胞は胎生期のみならず生後も生涯にわたり再生を繰り返すという他の神経細胞にはない特徴があります(6)。においを感じる過程は、におい分子が受容蛋白に結合することによって開始され、そこでの情報が嗅細胞で電気的なシグナルに変換された後、嗅糸を通じて第1次嗅覚中枢である嗅球に送られます。その後、第2次嗅覚野と呼ばれている嗅皮質へと送られ、脳内で嗅覚情報処理がおこなわれます(7)。 一つのにおい物質は何種類もの嗅覚受容体を刺激することができ、逆に1つの嗅覚受容体は何種類ものにおい物質に反応します。におい物質は濃度によって反応する嗅覚受容体が異なり、一般に濃度が増すほど刺激される受容体の種類が増えます(6)。糞臭のインドールを希釈するとジャスミンの芳香がするのはこのためです。

④音声共鳴 言葉の発声において軟口蓋の挙上などによる鼻咽腔の開放度によって、鼻腔共鳴の程度を変化させることが知られています。この程度が強いものが鼻声で、閉鼻声と開鼻声があります。閉鼻声はいわゆる鼻づまりの声であり、鼻腔の通気障害のため[m]、[n]などの鼻音の発生時に鼻からの呼気がないため鼻腔共鳴が減弱あるいは消失した状態です。閉鼻声は軟口蓋麻痺や口蓋裂などにより鼻咽腔閉鎖が不十分な場合に起こり、鼻に抜けた声、鼻にかかった声になります。 副鼻腔も音声共鳴に関与するといわれていますが、鼻腔共鳴に及ぼす影響はまだよくわかっていません(8)。

(1) 平川勝洋:副鼻腔の形態と機能. 耳喉頭頸77(11):799-804,2005
(2) 池田勝久:生体防御からみた上気道と下気道―相互の役割―下気道の生体防御機構としての上気道機能の役割、THE LUNG-perspectives.11(4):420、2003
(3) 間島雄一:呼吸器科医師のための鼻腔・副鼻腔の病態生理と慢性副鼻腔炎 生体防御における鼻腔・副鼻腔の役割、日本胸部臨床、55(11)増刊、ps12、1996
(4) Tos M. Goblet cells and glands in the nose and paranasal sinuses.In:Proctor DF,Anderson I, editor. The nose: upper airway physiology and the atmospheric environment.New York:Elsevier Biomedical Press, 1982:99-144
(5) 切替一郎原著:鼻腔の生理、新耳鼻咽喉科学 改訂11版p256-261,2013
(6) 土井清司:嗅覚器の形態と機能. 耳喉頭頸77(3):199-205,2005
(7) 井之口昭:嗅覚.“CLIENT No12鼻 第1版” ( 野村恭也、小松崎篤、本庄 巌編).中山書店、東京、2000、p46-57
(8) 廣瀬肇:鼻声概論,JOHNS 17(8),2001
(9) 切替一郎原著 新耳鼻咽喉科学 改訂11版,2013

図1 右鼻腔内における嗅上皮の位置(文献9より引用、改訂) 鼻中隔を基底部で切断して上方に翻転している。

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