高価なワインは本当に美味しいのか

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ワインブームと言われて久しい。デパートのお酒売り場では「ワイン試飲会」のイベントが頻回に開催されており、毎回多くのワイン愛好家で賑わっているようだ。

「安いワインでも、高いワインのボトルに入っていれば騙されて美味しく感じてしまう」とはすでに何年も前から言われている。このような人間の心理をうまく利用してワインの偽装も頻発しているという。つまり安物のワインを高額なワインとして販売し、これがかなり売れたとも報じられている。人間は舌にある味蕾(みらい)で、「塩味」「甘味」「酸味」「苦味」「旨味」を感じることができる。この味覚はさらに嗅覚(におい)に助けられて、食べているものや飲んでいるものの匂いを嗅ぎ分け、風味を感じている。これらのメカニズムは期待と密接に関連しており、匂いや香りの期待が味に強く影響していると考えられる。一般に嗅覚の方が味覚よりも鋭敏で、より細かい相違を識別できる。

試飲テストにおいて、前もって不純物を入れたことを知らされた群と試飲後に知らされた群では、前もって知らされた群があきらかに不純物を入れたものを美味しくないと答えた。このことから持っている情報によって生じる予測、期待がその評価に大きく影響することが分かる。しかし、事前の情報や先入観の影響を受けて何かを美味しいと感じ、その時に得られた「喜び」そのものは偽物ではないことが確かめられている。

カリフォルニア工科大学とスタンフォード大学の研究者が行った実験では、ワインの試飲においてその際の脳内活動を検討した。するとほとんどの被検者が高いと言われたワインを美味しいと答え、「価格が高い」と知ったときに「内側眼窩前頭皮質」が活発に働くようになった。この部位は報酬系において中心的な役割を果たす領域であり、「報酬が得られそうだ」という期待があると活性化する。このように「内側眼窩前頭皮質」は感覚器から得られた情報と期待感とを組み合わせる働きをしているようである。
つまり味覚の情報は、期待の情報に乗っ取られてしまいやすいという。別な見方をすれば、このようなメカニズムにより判断が効率的にできると考えられるかもしれない。何かを経験するたびに、細かい情報をすべて検証することは脳にも負担で、時間がかかる。すなわち

「良いはず」と期待しているものは、ともかく「良い」と判断してしまえばある意味で効率的なのである。
・・・好きだと思うと好きになる・・・

(クリス・バーディック著「期待の科学」夏目大訳、CCCメディアハウスを参考)

最近では、この「内側眼窩前頭皮質」は絵画や音楽を「美しい」と感じたときにも活発化して血流量が増加するという研究成果が、英国ロンドン大学の機能的磁気共鳴装置(fMRI)を用いた研究で分かってきた。この部分はうつ病や認知症などの疾患で活動が落ちるとされており、芸術の観賞が医療に役立つと期待されている(日経新聞2014.11.23)。

うつ病や認知症では種々の感覚刺激に対する反応が低下し、さらにそのような感覚情報による期待感も極めて乏しくなっていると予想される。

海外に出かけたときには良いと思ったアートはできるかぎり手に入れることにしている(将来のぼけ防止になるか?)。 シチリアのシラクーサで出会ったアート(作者とともに)

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