ハートラインNo.1 お尻の診察室

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お尻、特に肛門周辺の病気になってしまったり,あるいはその辺の病気かも知れないなあと心配している患者さんへ。なにしろお尻の病気の相談なんて恥ずかしいし,まして診察を受けるなんてとても嫌だなあと思うのが現実です。でも実際には症状が強く今すぐにでも病院に行かなければならない事も少なくありません。そこで“そもそもお尻の診察ってどういうふうにやるんだろう”という疑問にお答えし、みなさまの不安を少しでも取り除こうと、当院で行っている実際の外来診察風景をお教えいたしましょう。 まず患者さんは外来受付を済ませます。この際申し込み用紙には外科を受診するように記載してください。よく肛門科という看板を見かけますが、実際には外科の先生が診ています。一般的に大学病院など大きな病院でも肛門科というものは存在しません。昔からお尻とりわけ肛門部は胃や大腸などと共に消化器の一部に組み入れられており,通常消化器外科の先生が診ているからです。 受付を済ませ何となく不安な気持ちを抱えながら外科外来の前で待っていますと、ほどなくマイクでお名前が呼ばれます。 「○木◇子さん,6番にお入りください。」 さあドキドキしながら診察室へ入っていきます。担当する医師はすでに問診表を見ていますから,患者さんが大体どのような症状で来院したのか知っています。訴えの多くは肛門部の痛み,イボ痔や切れ痔の悩み,それと下血と言われる肛門からの出血がほとんどです。それ以外にはっきりした病気かどうかわからないけれども,お尻の違和感や不快感、湿疹など痒みを訴える皮膚疾患などの患者さんもけっして少なくありません。つまりお尻の心配を持っているけれども、さてどの科を受診するかわからないという場合まずは外科で結構ということです。 診察室内ではまずはじめに自覚症状についてもう少し詳しく伺います。たとえば肛門部の痛みでしたら“ズキズキする痛みなのか,ずっと続くいたみなのか?排便時だけなのか?出血を伴うのか”また出血が主訴であれば“どの程度の量か?便の色は黒いのか,赤いのか”。などです。 みなさんはこのような症状を話すときに恥ずかしい気持ちをお持ちになるかと思いますが,このとき我々診療する側の人間は真剣です。重い病気が必ずしも症状が強いとは限らないのです。肛門のささいな症状から大腸癌が見つかり早期の処置で事なきを得ることはけして稀なことではありません。診療においてはある意味問診が一番大切なことと考えています。(肛門部の病気の一覧を下表にお示しします。) さて問診のあとにはいよいよお尻の診察となります。まず看護師さんの誘導で診察ベッドに横になってもらいます。この時使用する診察台は特殊なものではなく普通のベッドです。カーテンを引いて外から見えないようにしてから次のように看護師さんが声をかけます。 『横になりましたらスカート(あるいはズボン)と下着を膝までおろし,壁の方を向いてお待ちください。準備が出来た時点で声をかけてくださいね。』 患者さんからOKのお声がかかると看護師さんがカーテンをそっと開け,おへそを見ながら両膝を抱え丸くなるように指示します。ここでお医者さんが診察ベッドに向かいます。そしてここからいよいよ診察です。 患者さんはなるべく体を丸め、肛門部がきちんと診察出来るような体勢を取ります。この状態でまず視診を行います。つまり肛門部の状態を肉眼的に観察するということです。肛門部の発赤の有無や腫瘤の大きさを確認しないでいきなり検査器具を挿入したりするのは禁物です。患者さんが痛みで緊張し診察が出来なくなってはいけません。さらに肛門にごく近い病気であったら病変部を傷付け状態を変化させてしまうかもしれません。十分な注意が必要です。 視診はすぐに終了し次に肛門部の触診と直腸診に移ります。発赤や腫瘤があれば圧痛の有無や奥に膿がたまっているような感じがないかを診ます。このとき軽く息を吐いたり全身の力を抜いていただくと肛門の緊張が解けて診察しやすくなります。しかし「力を抜いてくださいね。」と言ってもなかなか簡単に力を抜けるものではないようです。当然ですね。いくら診察とは言え見知らぬ他人に肛門をさらけ出すわけですから。このようなときにはけっして急がず患者さんに今行おうとしていることを説明しながら,少々時間をかけてゆっくり診察を進めます。実際こうするとまず診察不可能に陥ることはありません。徐々に緊張が解けて確実に肛門部および直腸内の指が届く範囲を診察することが可能になります。同時にゼリーを使い挿入時の滑りを良くしておくことも大切です。 先に直腸内の指が届く範囲ということを書きましたが,この狭い範囲が実はとても重要です。もし直腸癌があった場合に人工肛門になるかならないかを指一本で知ることが出来るからです。大腸癌を扱う消化器外科医ならば自分の人差し指の感覚で,このぐらいのところであれば人工肛門にならないということがわかります。患者さんにとっても作る側のお医者さんにとってもイメージが悪く心が痛む人工肛門、それを作るのかどうか、その判断を一瞬で出来るのですからおろそかには出来ません。 直腸診で少しでも気になることがあれば直腸鏡を挿入して肉眼的に確認します。これは滑らかなステンレスあるいは鉄の細い管をやはり直腸診と同じようにゆっくり挿入し直接病気の有無を見る方法です。見える範囲はせいぜい肛門から10cm程度ですが,肛門部や直腸の病気についてはやはり多くの情報が得られる簡便でよい方法です。たとえば痔核についても表面に血管が豊富で出血しやすいタイプのものなどは小さくても手術の対象になることがあります。 痔核はそれ自体やわらかいので,ただ触るだけではこのような情報は得られにくくやはり直腸鏡を併用するほうが診断は確実です。 はじめに視診、触診、直腸診をしっかりおこなっていますから肛門鏡検査の段階ではもう検査困難ということはありませんし、今まで検査が出来なかった方は一人もおりません。その他硬性直腸鏡や怒責診断法など難しい名前の診察法がありますが一般的に外来では行いません。 ここまでの十分な診察で患者さんも自分の症状がどういうことなのかよく納得し、医師も自信を持って今後の方針をご説明出来ます。そして必要な追加検査があればどのような理由でその検査が必要なのかを説明し、患者さんとご相談しながら計画する事が出来るのです。 もしあなたが少しでも肛門周辺に不安を抱えているのであれば、その不安を取り除くために当院外科受診を考えてみてはいかがでしょうか。悩みが解消するのみならず自覚症状が消失する事により、文字通り心身ともにすっきりする可能性が高いと思います。どうぞ遠慮なくご相談を。

外科 鈴木旦麿

肛門部の病気の一覧
痔核 内痔核、外痔核
痔ろう 肛門周囲の皮膚が腫れて膿が出る状態です。
裂肛(切れ痔) 肛門部が切れて痛みや出血を伴います。
膿皮症 肛門周囲の皮膚化膿性疾患。
毛巣洞炎 肛門後方、尾骨上方に膿瘍を形成し痛みや膿を持ちます。毛髪が皮下に埋没している事が多いが原因は不明です。
クローン病 痔ろうの原因になる炎症性の病気です。多発性の痔ろうを形成します。
ウイルス感染症 尖圭コンジローマ、扁平コンジローマ、肛門真菌症、肛門ヘルペス
悪性腫瘍 直腸癌、肛門癌、悪性黒色腫
その他術後の後遺症などの変形狭窄疾患、便秘、直腸脱などがあります。

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